大きくする 標準 小さくする

花園予選終戦。いよいよラストシーズンへ。

2007/10/23

 修学旅行から帰京して約40時間、決してよろしくはないコンディション。しかし僅かばかりの弱気と言い訳を捨て切れないまま戦える相手ではない。つい1週間前に山手学院を1210という驚異的な大差で粉砕した平塚学園。確実に8強入りできる力を持っている。

「言い訳は要らない。弱音も人のせいも要らない。試合後にグランド隅で座り込んで話す反省会はもう十分だ。後悔する前にやれることをやりきろう。1週間やそこら練習できなくたって今までの積み重ねは裏切りやしない。柏陽のラグビーができたら勝てる。自信を持とう」

 柏陽フェニックスは今持てるすべての力を発揮した。0-57、結果的にスコアは粉砕された。大きな意味では自力の差ということだろう。「層の薄さ」も自力のうちと考えれば。開始5分、司令塔きむにぃが足を負傷。SOの交代がいないので、無理やり出場するより他はない。が、走れない。蹴れない。シビアに見れば、この時点で勝利はほぼ消えた。柏陽のサインプレーはきむにぃのランニングから組み立てられている。最大の強み、サインプレーが決まらない。この試合のテーマ「陣取り合戦」のプランが揺らぐ。DFではSO周りを切り刻まれる。勝負の世界に言い訳は不要だ。層が薄かった。ケガ等もあり、この日の実働可能なバックスリザーブはあずき一人であった。

 アタックが組み立たない。それでもメンバーは果敢に低いタックルを繰り返した。FWでは椿とリョウらが足首周りにタックルに入り続け、BKではどきんちゃんが一人で他のBK全員の合計タックル数を上回る二桁のタックルを相手に浴びせた。

 もちろん、言い訳の仕様もない課題も露呈した。スクラムは完全に支配され、勝負どころでターンオーバーを許し、ゲームの流れを掴まれた。前線でしつこく耐え凌ぎつつも時々裏に出られた後の防御はどこまでも甘く、一瞬でインゴールを明け渡した。プレッシャーを前に、放るべきパスが放れず相手の餌食になった。それが今の実力だということだ。

 

 1年半前、ケイが楕円球を握った瞬間に柏陽フェニックスは生まれた。1年生だけで果敢に挑み、大敗を繰り返しながらも必死で成長した。すこしばかり自力と自信のついた2年目のシーズン、朝や昼休みに自主練に勤しむ姿も増え、時にはお互いの意見も衝突し、少しずつ戦う集団になってきた。ついに、最後のシーズンが始まる。明日の一日は、明日の一時間は、すべての瞬間はもう二度と帰ってこない。

以下、平成6年度福岡県立東筑高等学校第3学年10組クラス通信「ビレイ・オン」より一部抜粋。

 

「ピッピー!」ノーサイドの笛が青空に響き渡り、その瞬間、僕の高校ラグビーは終わった。

 1年目の夏、グランドは40度を越え、まさに地獄の戦場と化していた。いくらカレンダーを見つめても、月日は流れてくれなかった。

 2年目の冬、真っ暗なグランド、凍りつくように澄んだ空気、夜空を覆う星、そんな中にいると、一瞬、時間が止まってしまったんじゃないかと錯覚したことがあった。

 3年目に入ると、何に後押しされたのか分からないが、時間は加速し始めた。もう誰にもどうすることもできなかった。「まだ終わりたくない」「この仲間ともっと一緒にラグビーをしていたい」と時間の流れの中で僕がどんなに逆らい、あがいても、時間はさらに加速していった。

「ピッピー!」ノーサイドの笛が青空に響き渡った。 (以下省略)

 

13年前、県大会1回戦で東福岡高校に破れた瞬間のことを思い出す。5-43の大差だった。すべてを懸けて戦った。信頼・愛情・絆・意地・勇気、そんな何重もの鎧を身につけ、死力を尽くした。あの50分間は今でも私の人生の宝物となっている。

柏陽フェニックス1期生、二度と帰らないラストシーズンの始まり。懸けよう。懸けた分しか決して手に入らない。懸けた分だけ、必ず手に入るから。

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