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~オギ組最終章~(伊藤輝章)

2010/11/03

10月24日、ひんやりとした秋気漂う希望ヶ丘高校のグラウンドでオギ組の戦いは幕を閉じた。

 

 
 
 
2回戦の相手は横須賀総合高校。監督はかつて横須賀高校でその手腕を振るい、県ベスト8常連校となるまでにチームを作り上げた監督だ。さらには自分の恩師の先生でもあったため、決して相手を甘く見ていたわけではなかった。前日でのミーティングでは、「次を考えるな。勝ってから与えられた1週間の喜びをかみしめよう。」というような話までしていた。
 

 
試合開始。全国大会予選という舞台で緊張があったせいか、序盤からミスを重ね、簡単にエリアを取らせてしまった。攻め込まれる柏陽は、中央ゴール前で痛恨のペナルティ。試合開始からわずか3分で先制のペナルティゴールを許してしまう。この3点がこの日の明暗を分けることになるとは誰しもが思っていなかっただろう。時間と得点差を考えたらまだ0対0と変わらない状況であるにもかかわらず、焦りからか歯車が狂いはじめ、ペナルティを犯す。エリアを取られ、再びゴール前5mに食い込まれるものの、一丸となったモールDFで前進を阻止し、サイドアタックしてくる選手にも渾身の足首タックルで刺さり続ける。横須賀総合の大きな選手が何度もゴール前30cmというところまで迫るが、およそ5分間、粘りに粘って最後までゴールを明け渡さなかった。
 
ピンチを凌いだ後には、たいていチャンスが訪れるもの。いわゆる、試合の流れというやつだ。柏陽は流れを取り戻し、オギのスピードあるスワーブ、ミットの破壊力のある突破、まりものダイナミックなカウンターなど、予定通りのアタックで何度も前進を繰り返す。しかし、横須賀総合の執念とも言うべきタックルと素早いジャッカルがトライまでは許してくれなかった。ではあるが、ゴール前でペナルティを得て、ペナルティゴールを決めて3―3。試合をふり出しに戻した。ところが、すぐさまキック処理のミスからペナルティを取られ、ペナルティゴールを決められ3―6。ここで前半が終了した。
 
まだまだ全然用意してきたものを何も出していないのに、あっという間に25分が経ってしまった。誰しもがそんな感覚を持っていたに違いない。選手の表情からも、まだまだ俺たちの実力はこんなもんじゃない、後半はやってやる!という感情が見てとれた。しかし、焦ってミスから自滅しないように、もう一度落ち着いてゲームメイクをすることを確認し、後半開始。序盤は両チームとも譲らず中盤での攻防が続く。そんな中、ラインアウトのオーバーボールにいち早く反応した横須賀総合の選手がライン裏に抜け出し、またも柏陽は自陣深くに攻め込まれてしまった。しかし、前半のピンチを凌いだ柏陽は、DFにも自信があった。前半以上の好DFで接点を越え、ターンオーバーに成功。エリアを取り返した。誰もがここからの逆転劇を信じていた。
 

 
その後は完全に柏陽ペース。BIGHIGHの軽快な捌きがテンポを創出し、フェーズを重ねるごとに前進。徐々に横須賀総合のインゴールに迫っていく。横須賀総合もペナルティを繰り返し、ついにゴール目の前まで攻め込んだ。しかし、あと少しというところで痛恨のペナルティ。これでノータイムかと思われたが、横須賀総合がタッチに蹴り出したところで笛が鳴らなかった。ただ、ここで鳴らずとも、次のラインアウトでボールを取られたのならば、モールを組まれ、時間を使われてタッチキックという流れが容易に想像された。もはや万事休すかと思われたその時、ラインアウトボールを弾き、こぼれ球を柏陽が獲得した。
  
柏陽に与えられた最後のチャンス。頼む・・・頼む!!心の中で思っていたことがいつの間にか声になって出ていた。
最後の渾身のアタックでゲインはしたものの、しかし願いは届かず、ノックオン。ここでノーサイドの笛が鳴り響き、オギ組の戦いが終わった。
  
横須賀総合高校。前述のとおり監督は自分の恩師であり、さらには前任校では度々合同練習をしていたので、横須賀総合高校というチームについてはかなりの情報を持っていた。この日の試合に向け準備も綿密にしてきた。敗者の弁になるかもしれないが、決して勝てない試合であったとは思えない。実際トライを1本も取られることはなかった。しかし、結果は3-6。トライを取られていないにも関わらず敗北という現実だけが突きつけられた。
人生には、目の前にある現実に納得できない、ということがしばしばある。しかし、その現実には意味があることも多いのではないだろうか。例えば、まるで理不尽にも思える先輩からの叱咤。後輩としてはその瞬間は納得できないだろう。しかし、先輩は後輩の成長を期待して、あえて厳しい言葉を選んでいたりもする。たいていの場合、その意味に気づくのはある程度の年月が経過してからだ。今回の敗戦もきっと何らかのメッセージに違いない。そう思って謙虚に受け止め、そして素直に横須賀総合の健闘を称えようと思う。
 

 
オギ組、本気で花園を目指し、真摯に努力を続けて成長してきた素晴らしい代だった。週3回の朝練に昼の体幹トレーニング、全員お揃いの弁当用タッパーなど、確実にこのオギ組は柏陽ラグビー部に新たな伝統を刻んでいった。そして日々の練習にウェイトトレーニングを重ね、神奈川の他チームの選手に全くひけをとらない選手へと成長していった。だからこそ、この日の結果だけではなく、これまでの3年間を評価してあげたいと心からそう思っている。これまでの努力は偽りなく本物であり、ここまで共にやってきたメンバーは偽りなく仲間と呼べる。有形無形の財産とともに、胸を張って新しいステージに踏み出してほしい。
オギ組のみんな、本当におつかれさまでした。そして、ありがとう。 
 

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