桐蔭学園戦 泣けるほどエンジョイできた60分
2008/04/22
「この2年間の総決算のつもりで戦います」前日の決意表明で、椿が言った。3年生の頭の中に、2年間の数々の場面が走馬灯のように甦る。ときには悩んだ。ときにはケンカもした。敗戦のたびにみんなでうなだれた。でもほとんどの時間は大笑いしていた。この大好きな仲間と全員一緒に試合ができるのは、もしかしたらこれが最後になるかもしれない。涙もろい顧問に育てられた選手たちは、やっぱり涙もろかった。
試合前恒例のタックル儀式
相手は花園で3年連続ベスト4入りしている桐蔭学園。決戦のテーマは「For the team」どんな瞬間もどのプレー選択も、すべてはチームのために。一緒に過ごしたこの仲間のために。選手たちの溢れる感情が伝わり、うまくしゃべれない。かろうじて発することができたセリフはただ一つ。
「さぁ、感謝を力に変えよう」
ジャージ渡しと決意表明。後ろには一人ひとりの決意の寄せ書き
最高の試合前日練習、最高の試合前アップ。一人ひとりの感情は研ぎ澄まされ、熱気を帯びているにも関わらず、なんだか張り詰めた冷気のようなものも感じる。この雰囲気、少し懐かしい感じがするが、いずれにせよ「その世界」にたどり着いたことは間違いない。
11:00 キックオフ
開始3分に失トライ。その後も3分おきにトライを奪われる。一般的には100点ゲームのペースだ。ところが明らかに雰囲気がおかしい。トライこそ奪われるものの、柏陽のタックルは桐蔭学園の選手の膝に突き刺さり続けている。長年かけて作り上げた桐蔭学園伝統のスタンディングラグビーは、この日も概ね上手くいっている。にも関わらず、ゾンビのように起き上がっては極端に前に出て刺さり続ける柏陽の方が、試合の雰囲気を掴んでいるのだ。前半だけで柏陽が桐蔭の選手を地面に打ち付けること約50回。100点ゲームペースで「切れる」どころか、柏陽を覆う空気は1分1分確実にヒートアップしていった。
攻撃はというと、知を結集させた柏陽オリジナルモールは全国の雄・桐蔭学園でもお構いなしに押しまくり、感動的なトライを奪ってみせた(モールを15m以上ドライブしてゴール前50cmまで迫ること3回)。得意のサインプレーは何度も相手の裏に出ることに成功し、フェーズアタックでも、抜群のパスワークでチューがボールをさばき、テンポのいいアタックを実現した。強みを生かすべく採用した通称「ブルーフェーズ」「キラーフェーズ」も計画通りにチャンスをメイクし、キョータやケイのロングゲインを生み出した。スクラムからのボール供給率は100%、ラインアウトでは桐蔭ボールはマッチャンがカットし、マイボールは競ってくる相手に全く触れさせることなく8/10をクリーンキャッチした。後半のトライ数は「1対3」。しかし、ボール・エリア支配率では柏陽が7割近くを保ち、敵陣で攻撃を続けた。
スコアは確かに開いた。そこはさすがに老獪だ。関東選抜でもひときわ高い評価を受ける天才ハーフ団は、落ち着いたゲームメイクで、決して乱れない。桐蔭のラインDFはさすがに固く、スタンディングプレーは見事としか言いようがなかった。
「7-52」は必死の善戦か。いや、上記のように、攻守ともに内容はスコアほどの差ではなかったと思っている。個々の力差は確かに100点差以上。全国から日本一を夢見るラグビーエリートが集う桐蔭とは異なり、柏陽は経験者ゼロ。FWのほとんどが身長170cm体重70kgに満たないちびっ子集団だ。
知の結晶・ラインアウトとモールは、ふた回り以上大きくパワフルな相手を圧倒
そんな集団でも、常に「格上を倒す」ことを前提に準備を重ねてきた。攻撃の軸は2005年度早稲田大学、DFの軸は2003年度青山学院大学、ラインアウトとは帝京大学古田コーチ、スクラムは早稲田大学石嶋コーチ、モールには知る人ぞ知る若き知将・中京大学中本監督の考えが取り入れられている。その他にもFWの細部は大瀬コーチが、BKの細部は小森コーチが「知」を植え付けてきた。すべては「格上を倒す」ことが前提のラグビーを追求してきた。この日「知と熱」が備わった柏陽は、桐蔭学園相手に確かに「勝負」できていた。
試合後、大泣きする者、晴れやかな顔の者、複雑な顔の者、様々だった。包み隠さずに言えば、この試合は「これで(受験に専念するために)辞めるか否か」の岐路であった。新人戦が終わった頃、この件についてチームが割れた。本音を言い合ったが、お互いの信頼関係が揺らぐこともあった。もしかしたら半数以上は答えを出し切れないまま、この決戦を迎えたのかもしれない。
2年前、ガラクタが埋まった空き地に体操服で集合したときから、フェニックスの歴史は始まった。平沼高校らとの合同チームで活動した日々、初めての試合で惨敗を繰り返した横浜セブンス、初勝利の山手学院戦、一生忘れられない屈辱の日・横浜隼人との文化祭招待試合、海のフィットネス、山のフィットネス、85分間走り通したあのアルティメット、国学院栃木Cを倒した夏合宿、逆襲を達成した隼人・神奈川工業などとの練習試合、チームが崩壊しかけた横須賀戦、魂が宿った生田戦・・・。本当によく頑張ってきた。たとえこの桐蔭戦が最後になったとしても、この偉大なる3年生には最大級の感謝を伝えたい。心から敬意を表したい。胸を張って、受験勉強の日々を過ごして欲しいと思っている。これが本音だ。
しかし別の本音もある。「この仲間で、可能性がある限り一緒に過ごしていたい」つまり寂しいのだ。誰が一人欠けても寂しい。みんな揃ってのフェニックス第1期である。やっと筋肉がつき、やっとラグビーが分かってきた時期だ。さぁ飛躍というときに終わるのは、やはりもったいない気もする。こんなに頑張ってきた素敵な日々なのに「春でやめたけどね」という後ろめたさを重ね塗りしてしまうのは、あまりに不憫な気もする。このメンバーの絆が「続けた組」「やめた組」に二分するのは、あまりに悲しい。
行きついた答えはこうだ。一人でも続ける限り、全員花園予選までチームの一員として戦おう。たとえ週に2回程度し来られなくとも、たとえ選手ではなく2週に1回程度1年生指導に専念するチームスタッフになろうとも、最後の瞬間までこの仲間が欠けることなく「チーム」でいよう。
Make the history.
正真正銘のラストステージ、「花園」へ向けて。
キャプテン・ケイ
最高の試合だった。本当にエンジョイできた。決戦前日の練習、チームが一つになるのを感じた。今までも一戦一戦必死だった。けど、今まで感じてきた試合前とは明らかに雰囲気が違う。これが決戦。テレビで花園の決勝とか見てて、試合前に感情が抑えきれなくて泣きまくってる選手を見たことはあった。でも自分は泣かないと思ってた。けど、前日練習の最後の松山先生の一言一言に涙が止まらなかった。
まだサブグランドも整備されてなかった頃に部員0のラグビー部に入部して、初めて先生とパスを放ったこと。山手に負けて試合後延々生タックルをやったこと。初めて試合に勝ったときのこと。文化祭で招待しといて隼人に木端微塵にされたこと。直前の練習試合で勝ってた県立横須賀に惨敗してなにをどうすればいいのか立ち直れなくなったこともあった。そういう一つ一つのことを思い返してまわりを見渡すと、皆が涙していた。自分も涙がとまらなかった。嬉しいとか緊張とかそんな言葉じゃ言い表せない、今まで味わったことのない感情だった。そして、松山先生にラグビー教えてもらって、この仲間とラグビーができる自分は本当に幸せだと思った。そして、このチームのためなら自分の体はどうなってもいいと思えた。
決戦当日。最後まで全く切れなかった。夢中になりすぎて内容はそんなに覚えてないけど、なぜか負けてる気がしなかった。FWがモールを押し込んだときはまた泣いてた。そして試合後、皆に感謝の気持ちを伝えてたらまた泣いた。
なんかすごい幸せな2日間だったと思える。あっという間だったけど2年間、皆で険しい道を通ってきた。死ぬ気で毎日練習してきたからみんな心の底から泣けたんだと思う。ただ、やっぱり悔しい。でもちょっと嬉しい。また壁が見えた。絶対超えられる。今回は今まで人生で味わったことのない感覚を知ることができた。でも、勝ってない。もっと練習して、この桐蔭を倒したときの計り知れない喜びを知りたい。やるっきゃない。
FWバイスキャプテン・椿
今まで柏陽のFWが試みなかったモールをこの春の大会に向けて練習を重ねてきた。そしてこの春の大会でそれが実を結んでとても嬉しかった。技術的な話はこのくらいにして、試合中は辛かったけど楽しかったし、試合後のミーティングは悲しかったし悔しかったけどとても感動した。こういう時間を沢山の仲間と共有できたことが今までの人生の中で最も価値あるときだったと思う。
BKバイスキャプテン・きむにぃ
きのうの試合では途中で何回か泣いてた。試合後にほんっっとに悔しかったら泣くときもあるけど,試合中に泣くのはたぶん一年くらい前の桐蔭中等で(たしかコバが)トライとったとき以来だった。あのときはただの嬉し泣きで,試合には負けたけど成長具合では勝ったと思った。このまま先生についていけば,いつか中等に勝てるって思った。でもきのうの試合では,まだ負けたわけじゃないのに,トライもまだとってないときに泣いた。泣いた理由は,桐蔭にトライとられたあとにインゴールで,コバとかキョータが,「終わっちまうぞ!」とか「最後だぞ!」って叫んで盛り上げてたから。この試合が終わっちゃったら,たった1点差負けであっても次はないんだなぁって思って。
映画とかドラマとかマンガとかゲームでそういう場面を何回か見たことがあって,でもそのときは特になにも思ってなかったけど,いざ自分がその場面に立たされると,こんなに涙が出るものなのかと思った。でもがんばって,ドロップキックする前に抑えた。ドロップキックとかペナルティキックで途中,何回かミスがあって,ネガティブになりかけのところを,キョータとかFWに助けられた。「いちいち気にすんな」とか言って怒ってくれた。ほんとにこの仲間でよかったなぁって思った。
それで試合が終わってから,先生の話聞いて,みんなで円陣組むとき,コバが「やだよ~」って泣いてた。ドラマつくれそうだった。口には出さなかったけど,みんな同じ気持ちだったと思う。
話がちょっとずれるけど引退について。自分はこの大会が終わったら勉強に移るつもりだった。その理由は,もし続けるにしても,週1~2回の参加になりそうで,そんなやつがバイスキャプテンだレギュラーだ言ってたら,毎日本気で練習してる下級生にとっては障害になると思ったから。それは柏陽ラグビー部のためにならないし,いい加減勉強しなきゃいけない時期だし,ちょうどいいかなって思ってた。
でもきのうの試合のあと,まだ続けたいってめっちゃ思った。まじで続けたいって思った。だから時間みつけて続けることに決めた。なのでこれからもよろしくおねがいします。
小森コーチ
県大会お疲れ様でした。試合前日、試合前、試合後に人の目を憚らずに涙できる君たちを見て大人になったなァと思いました。そして君達と出会え一緒にラグビーをすることが出来て嬉しく誇りに思います。
ラグビーに関わらずスポーツは好きだからやるものです。義務でやるべきではない。人は、目標があるから努力できるのだと思います。わたしの小さい頃の目標は「赤黒のジャージを着る」ということでした。それに向かって努力することになんの迷いも躊躇もなかったです。今思うとそんな目標をもてた自分は幸せだと思います。
早く次の目標を見つけてそれに向かって一直線に進んでいってください。でも、桐蔭の足元も見えています。今からがラグビーもっと楽しくなるよ(悪)。 小森 允紘
大瀬コーチ
桐蔭戦、ならびにそこに至るまでの過程。充実した日々を過ごせたことでしょう。また、これから、リベンジに向けて、どうやったら相手を止められるだろうか?どうやったら裏に出た時に次につなげることができるだろうか?どうやって面白い奇襲攻撃をかけられるだろうか?そしてどうやったら勝てるだろうか?それを考えるとワクワクしませんか?
まだまだ、伸びるチームです。基本プレーについてもまだまだです。1年生も新たに加わって、更なる充実した日々を過ごしていきましょう。
西田創さん(元立教大学主将・現NECグリーンロケッツSH)は前日の試合前練習に参加
桐蔭学園との試合お疲れ様でした。このチームは柏陽フェニックスという名の通り、皆さんの心にずっと生き続けるでしょう。心の中にだけでなく、花園予選まで、「チーム」として動き続ける事を心から嬉しく思います。普通に生活していたら、おそらく一生かけて探しても見つからない「仲間」。しかもたくさんの仲間。
それに出会い、絆を深め合えたのは、そこにラグビーがあったからです。ラグビーというスポーツの素晴らしさの真意を知れた皆さんの未来は明るい。これから、この2年間の輝きを裏切らないように、柏陽フェニックスらしく生きてください。花園予選楽しみにしています。卒業後は立教大学で共に価値を創造しましょう。笑 西田創
↓この試合に関するラグビーファンの記録を発見したので紹介しておきます。
http://blogs.yahoo.co.jp/sidelinecap/22692422.html
http://anekyon.exblog.jp/7030353/#7030353_1
http://blog.goo.ne.jp/bunchou-k/m/200804
http://anekyon.exblog.jp/7006135/
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